セルフ・コンパッションについて

「Self-Compassion」をの和訳は「自己への思いやり(慈悲)」です。もう少し言い方を変えて「自分への思いやり」でもいいかもしれません。

実は、マインドフルネスと同様、セルフ・コンパッションも、仏教やインド哲学を由来としています。原始仏典には『慈悲喜捨(じひきしゃ)』という心のありようを表す言葉があり、それぞれ以下のように解釈されます。

慈(生き物に対して楽しみを与えようとする心)
悲(生き物の苦しみを取り除こうとする心)
喜(妬みを捨てて他人の幸せを喜ぶ心)
捨(他人に対して偏りのない、落ち着いた心)


 この中でCompassionと訳されるのは『悲』です。
 誰かの辛さに気付いて、それを取り除こうとする行動に結びつくものです。つまり、セルフ・コンパッションとは、「自分への優しさ」であり、それは「自分の苦しみに気付き取り除こうとすること」でもあります。

 米国のクリスティーン・ネフ博士は、セルフ・コンパッションには次の3つの要素があると説いています。

1.自分への優しさ(自己批判をしない)
2.共通の人間性の認識(人間である以上誰しも困難はあると認識する)
3.マインドフルネス(感情をありのまま受け入れる)

 これらの要素を獲得し、統合することで、真のセルフ・コンパッションを手に入れることができるのです。

 さて、セルフ・コンパッションに近いイメージを持たれがちなものに、セルフ・エスティーム(自尊感情/自己肯定感)というものがあります。これは、人が生まれてから生きていく過程で、親を含めた周囲の人との関りで、上昇したり低下したりするものです。自分自身を積極的に評価し、多くの場合平均以上を求めます。
 一方のセルフ・コンパッションは、自己評価や他者との比較を行いません。これまで他人を気にして、本当の感情を隠したり、無意識に気持ちを押し殺してきたりしてきたことに気付き、たとえ困難に直面したとしても、あるがまま、肯定的なこと否定的なことのどちらも、やさしく受け止めます。また、こうした困難や苦悩は人間であれば誰もが持つ共通性であると考えます。そしてそこから、改善点を見つけ、次の行動を起こすモチベーションに繋がっていくのです。
 セルフ・エスティームとセルフ・コンパッションは、肯定的な自己態度ということでは、相互に関係する部分があるものの、それぞれは違うものです。もし、セルフ・エスティームが高くなかったとしても、セルフ・コンパッションが育まれれば、心の安定と幸福感を感じることができるのです。